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「……ねぇ、夕鶴?」
体が跳ねる。言魂は黙れと命令しない限り言葉までは奪えない。
彼女は自分が困惑するくらい冷静だ。逆にそこまで落ち着いていると自信がなくなる。
もしかしたら、有利なのは向こうの方なのかもしれない。
自分がそう見えているだけで、実は追い込まれているのだろうか。
「あっ!?」
弱気な考えが浮かんだ瞬間、夕鶴はつい声を上げてしまった。
「馬鹿な子」
彼女を縛っていた言魂の呪縛が解け影の符まで外される。
やってしまった。自分は一人で悔しそうに唇を噛み締めた。
彼女に余裕などなかったのだ。あれはただの演技。
言魂は使い手の心まで強く関係してくる。思いが強ければ強いほど、影響は大きい。
自分のように普段から使いこなせる者もいるが、それらとて例外ではなくて。
強気になれば威力は上がるし、弱気になればその分だけ呪縛は弱くなる。
自分はまんまと眞智に嵌められたという訳か。
「残念ね。貴方は頑張ったわ」
『あぁ、苦しくて痛かった。早くお前の血肉を寄越せ、巫女姫よ』
ゆっくり眞智が近寄ってくる。彼女の手にはナイフが握られていた。
動けない。いつの間にか鬼の姿になった彼女と目があった瞬間、体が動かなくなる。
「夕鶴、ごめんね?」
あの時聞いた言葉と全然違う、形だけの謝罪。もう、眞智は眞智じゃない。
「……眞智」
呟きに彼女は答えないまま、ナイフを自分の肩に突き刺した。
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