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振り下ろされる巨大な腕。これが当たれば潰れてしまう。
人間、死に直面したら悲鳴をあげられないのは本当だと思った。
悲鳴も上がらない、体も動かない。必然的に言魂を使う事は不可能。
ここで死ぬのか、短い人生だったな。
なんて考えた自分の頭の中に不浮かんだのは、あの青年。
守り人になってくれると確かに言った。彼方の事も助けてくれた。
なら。
「助け、て」
なら、もしかしたらこんな状況でも助けてくれるのではないだろうか。
今日初めて会ったとか、そういうのはもうこの際関係ない事にしよう。
一縷の望みに縋るのも悪くない。どうせ死ぬなら、全力を出したかった。
「……助けてください、先輩!!」
学校中に響くような大きな声に、自分は来てくれるよう願いを込めた時。
急に風が吹き、それが間一髪。自分を鬼の拳から助け出してくれた。
「危ねぇな、無事か?」
その声のした方に視線を向けると、恢は今日初めて会った場所に立っている。
そのすぐ脇にいる男の子を見て、自分の顔に自然と笑みが浮かぶ。
「先輩、叉玖!よかった、叉玖が無事で」
心配していた。叉玖の怪我は結構深かったのに側にいられなかったから。
彼は再びオサキ狐の姿に戻って、勢いよく自分に飛び付いてきた。
『ニィ!』
「よかった、叉玖」
叉玖をしっかり抱きしめる夕鶴に視線を向けて恢は柔らかく笑う。
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