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差し出された手を悲しそうに見つめてから、眞智はただ微笑んだ。
その笑顔は何もかも諦めたような悲しいもので。
「……眞智っ!」
「さよなら」
差し出した手は取られる事なく。彼女の体がふらりと傾いた。
姿が見えなくなる前になんとか走り寄り、その細い腕を思い切り掴む。
「きゃっ!?」
腕を掴まれた彼女は信じられないというように自分を見上げる。
自分は屋上から上半身だけを乗り出して、眞智の手を必死で掴んでいた。
まさか間に合うとは思っていなかったのだが。人間、やろうと思えばいけるものだ。
「夕鶴、離して!私が死ねば曉だって力が弱まるわ!」
「確かにそうね。それを考えるなら、貴方を見殺しにするべきだと思うわ」
表情がみるみる歪んでいくのが分かる。いくら眞智が軽いとはいえ、自分は力のない女だ。
それ程力がある訳ではないし、何よりも彼女に刺された肩の傷が鋭く痛む。
「よりによって利き手を刺すなんて。酷いわ、眞智」
「なら落として。貴方を苦しめたくないの。ほら、あの先輩だって曉に圧されてる」
確かに、視線をグラウンドに向けると恢は鬼に圧されてる。彼の顔には疲労が見えた。
恢は夕鶴と違い、霊力が底無しではない。だから長時間の戦いには向かないのだ。
「大丈夫、先輩なら大丈夫だから。叉玖!」
いきなり叉玖を呼ぶ自分。真っ直ぐ霊力の糸が叉玖に注がれていく。
叉玖の体を炎が包み込み、次に姿を現したのは巨大な二尾の狐。
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