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『ぎゃあぁあぁ!』
耳をつんざく悲鳴が聞こえ、鬼の体が霊力に耐え切れずに粉々に砕け散った。
夕鶴は乱れた呼吸を整える。こんなに符と力を使った事はなかった。流石に疲れる。
だがまだやらなくてはいけないものが一つだけ残っているのだ。
砕け散った鬼の欠片。これは放っておいたらまた鬼に戻ってしまう。
そうなる前に、この場を綺麗に清めなくてはいけない。
「〈我が血、我が声、我が力よ。この場を清めたまえ〉」
自分で作り出した清めの言魂を唱え、自分はいつものように柏手を打つ。
夕鶴を中心に清浄な風が広がっていき、鬼の欠片まで跡形もなく消し去った。
呆気ない。今まで何人も殺して来たあの鬼の欠片が最後、風に触れた瞬間掻き消えるなんて。
「……疲れた」
その場に座り込み、安堵の息を吐いた。やっと終わったんだと安心した。
叉玖がその横にやってきて、巨大な体のまま擦り寄ってくる。
「お疲れ様、叉玖。やっぱり大きい時は綺麗ね」
あの時は必死で見る事もなかったが、巨大化した叉玖は美しい。可愛い時とは大違いだ。
その柔らかい毛を撫でながら、所々で血の着いた場所を優しく触れる。
「傷だらけね、綺麗な白い毛が台なしだわ」
叉玖はそんなの気にしてないよと言いたいのか、鼻を鳴らしてくれた。
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