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そのまま教室に入ろうとした自分の手を、いきなり誰かが掴む。 「姫崎夕鶴さん」 自分の名前を呼ぶそれは、全く聞き覚えのない声で。 その声に振り向くと、やはり見覚えのない青年が立っていた。 横で眞智が息を呑む。回りの人も同じような反応だ。 「……誰?」 目を細めて問い掛けると、青年のみならず眞智でさえ目を丸くする。 「夕鶴、この人知らないの!?有名じゃない、王子様みたいなかっこいい人って!」 王子様という単語を聞いて、自分はその有名人を見上げた。 薄い茶色の髪に深い黒の瞳。女のような顔付きは、確かに王子様と言われれば頷ける。 「そう。で、その王子様がなんの用?」 「夕鶴、いつもより素っ気ないわ」 「興味ないから」 興味ないと目の前で言われる事ほど、辛いものはないだろう。 今までどんな女性にもちやほやされていたのだから尚更。 青年は笑顔のまま固まって、回りの女子からは猛反論。 「〈煩い〉」 だがそんな様々な反論は、これ以上喧しくなる前に言魂で止める。 面倒くさそうに青年を見上げてから小さくため息を付く。 「何しに来たのかは知りませんが、取り巻き連れて帰ってください。迷惑です」 それだけ言うと踵を返して教室に入る。眞智も慌てて追い掛けてきた。 「勿体ないわよ夕鶴。あんなかっこいい人が尋ねて来てくれたのに」 頬杖を付きながら、真っ直ぐ熱弁している眞智を見る。 その微動だにしない眼差しに彼女は少し怯んだらしい。
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