149人が本棚に入れています
本棚に追加
/213ページ
そのまま教室に入ろうとした自分の手を、いきなり誰かが掴む。
「姫崎夕鶴さん」
自分の名前を呼ぶそれは、全く聞き覚えのない声で。
その声に振り向くと、やはり見覚えのない青年が立っていた。
横で眞智が息を呑む。回りの人も同じような反応だ。
「……誰?」
目を細めて問い掛けると、青年のみならず眞智でさえ目を丸くする。
「夕鶴、この人知らないの!?有名じゃない、王子様みたいなかっこいい人って!」
王子様という単語を聞いて、自分はその有名人を見上げた。
薄い茶色の髪に深い黒の瞳。女のような顔付きは、確かに王子様と言われれば頷ける。
「そう。で、その王子様がなんの用?」
「夕鶴、いつもより素っ気ないわ」
「興味ないから」
興味ないと目の前で言われる事ほど、辛いものはないだろう。
今までどんな女性にもちやほやされていたのだから尚更。
青年は笑顔のまま固まって、回りの女子からは猛反論。
「〈煩い〉」
だがそんな様々な反論は、これ以上喧しくなる前に言魂で止める。
面倒くさそうに青年を見上げてから小さくため息を付く。
「何しに来たのかは知りませんが、取り巻き連れて帰ってください。迷惑です」
それだけ言うと踵を返して教室に入る。眞智も慌てて追い掛けてきた。
「勿体ないわよ夕鶴。あんなかっこいい人が尋ねて来てくれたのに」
頬杖を付きながら、真っ直ぐ熱弁している眞智を見る。
その微動だにしない眼差しに彼女は少し怯んだらしい。
最初のコメントを投稿しよう!