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「あのね、眞智。ああいうタイプの人は自分を偽ってるに決まってるわ。あんないい子ちゃん、居る訳ないもの」 確かにそうかも知れない。でも、それでいいのではないだろうか。 結局はあんな綺麗な人と付き合える訳がないのだから、自分の理想を押し付けるくらい。 「それはそのまま、あの人の人格を否定してる事になる。辛いのよ、ああいうの」 何か知っているような口ぶりだが、眞智の知っている限り夕鶴がそういう事をしたという事はない。 彼女はどれだけ理想を押し付けられても、それを突っぱねるような人なのだから。 「夕鶴、どうしたの?」 「別に。そういう事されて傷付いた人、見た事あるから」 多くは語ってくれなかった。だが、夕鶴は自分の昔話をするような人ではないのをよく知っている。 だから眞智は聞かない。彼女が話したくなった時にしか聞かないと決めているのだ。 「そう。確かに辛いかもね」 夕鶴の瞳が切なそうに揺れているから、これ以上の話はやめておこう。 彼女にはまだあまり聞いた事のないような過去があるのだろうか。 ―――――――――――――― 「眞智、先生来たわ」 ぽかんと突っ立っている眞智を見て、夕鶴は苦笑しながらその体を突く。 慌てて自分の机――といっても夕鶴の前の席なのだが。 そこに座る彼女を見ながら、不意に思い出したのは自分を偽って傷付いた少年。 幼なじみだった。いつもいい子を演じていた、あの少年。今はどこにいるのだろうか。 中学に入る前、彼は確か家の神社を継ぐとかなんとか言う理由で引っ越したはず。 「……聖(ひじり)、どこにいるのかな」 いつも笑いながら自分を偽っていた幼なじみを思い出して、夕鶴は深いため息をついた。
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