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まず第一に、光輝に勝ち目がある訳がない。彼に家の場所なんて知られたくないから。 という事は、必然的に夕鶴が選ぶのは恢という事で。 「鴉島井先輩、帰りますよ」 「あぁ、分かった」 「夕鶴ちゃん!?」 恢に負けたのがそれほどショックなのか、目を見開いて立ち尽くしてしまっている。 対する恢は勝てたからかご機嫌だ。夕鶴は二人を見ながら重いため息を付く。 「大野先輩、貴方に送ってもらう気は全くないので。付き纏わないで下さいね」 こういうタイプの人間は中学の時の先輩と同じ。自分に振り向いてくれるまで付き纏う人だろう。 現に光輝は会ったばかりなのに馴れ馴れしいし、あげくの果てには送るなんて言い出す始末。 もう少し常識というものを持ってくれないのだろうか。 固まってしまった光輝を置いて、夕鶴は先に歩き出す。慌てて恢がそれを追い掛けた。 恢のちょっかいに笑顔を浮かべる夕鶴を見ながら、光輝の顔は悔しさと嫉妬で歪んでいる。 容姿だけを見ると、確実に自分の方がいいという自信が光輝にはある。 夕鶴はまるで自分を見ようとはしてくれない。恢には笑顔を浮かべているのに。 こつこつと靴音が生徒会棟に響き渡る。今はもう、生徒会棟には誰もいないのだろう。 耳が痛くなるような静寂が、今の光輝には気持ちいい。本来なら怖く感じるのに、だ。 オレンジ色に染まる校舎。そして生徒会室の中も、全てがオレンジ。 幻想的でもあるその光景に目を奪われた光輝は、奥の部屋で何かに呼ばれた気がした。 「誰だ?」 問い掛けても答えはない。確かに聞こえたはずなのだが、部屋を覗いても誰もいない。 それに奥の部屋は立入禁止だ。昔から何か嫌な噂が絶えないらしく、空気もどこか重々しいからあまり入らない場所。 ただ、今の時間は何かとても美しい。辺り一面、夕日のお陰で真っ赤に染まっているからだ。 「何もない、か」 ぱたりと生徒会室の扉を閉めて鍵をかけると、光輝は学校を後にする。 誰もいなくなった生徒会室の奥の部屋で、何かがもそりとうごめいた。
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