02

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「気にすんなって言ったろ。別に俺は気にしてねぇよ」 本当にそうだろうか。恢は嘘を付いているのではないかと疑ってしまう。 だって自分も同じ事を体験した。その経験を気にしなくなるなんて、きっと一生ありえない。 「先輩、嘘って体に悪いですよ」 「そうか?後な、姫。傷を時間は治してくれない。誰かに受け入れられて初めて治るんだよ」 恢の瞳は優しくて、傷付いてるような様子はまるでない。もしかしたら彼はもう、傷を乗り越えたのかもしれない。 「……先輩」 「お前にだっているさ、受け入れてくれる奴は」 眞智だってそうだ。夕鶴を異端だと言って避けたりはしない。だから苦しむ事はないんだと。 走り回る小さな子供達に視線を向けながら、しかし恢はこちらに向けて言葉を紡ぐ。 確かに眞智は今でも自分の事を気味悪がったりしない。あれでどれだけ救われただろう。 「いつか来るさ、お前にも。全く傷が痛まなくなる日が」 今はただ昔についたその傷が痛んでるだけ。痂になればもう痛まない。 昔に付けられた傷を抱えて生きている。抱え続けて、自分はそれを忘れようとしない。 それでは駄目だ。思い出したら傷は開く。忘れなければ傷付いたまま。夕鶴はただ、その傷を忘れる努力をしたらいい。 「そうします。後ろを振り向き続けるの、好きじゃないし」 もう忘れよう。忘れて、新しく踏み出すんだ。どれだけ人に怖がられても、嫌がられても。自分は一人にならない。 どれだけ異端と呼ばれようが、蔑まれようが。夕鶴にはずっと眞智と恢が居てくれる。 「それじゃ、な」 いつの間にかマンションの前まで来ていたらしい。彼が立ち止まってやっと気付く。 「先輩、ありがとうございました!」 勢いよく頭を下げると、恢は苦笑をしながら手を振ってくれた。
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