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「あんな逃げ方、いけるのか」
眞智と別れて二人きりになった瞬間、恢が苦笑を浮かべながら言う。
夕鶴もそれは思っていた。まさかあんなに簡単に彼から逃げられるとは思っていなかったのに。
「まぁ、逃げられたんだからいいじゃないですか」
ただ少し彼に隙があっただけ。自分としてはその隙のお陰で逃げられたから、万々歳だった。
「そうだな。あんな奴の事を考えるだけ無駄だ」
「そういう事です。ところで先輩、どこに行くんですか?」
恢と夕鶴が今向かっているのは駅だ。電車に乗らなければいけないくらい遠いらしい。
ただ、そんなに遠い場所に行くなら休日の方がよかったのではないかとも思うのだが。
「あぁ、そんなに遠くねぇよ。二駅くらいだから」
自分からしたら十分遠いと感じるのだが、どうやら二駅は遠くないらしい。
駅に着いて切符を買って、がらがらの電車に乗り込む。
「空いてますね」
「そうだな、ちょうど帰宅ラッシュが過ぎてるし」
学生でごった返す時間帯でなければ、この駅も電車もがらんとしている。逆に寂しささえ感じてしまいそうな位。
「先輩、なんで大野先輩と仲悪いんですか?」
「大野が気になるか?」
「まさか。好奇心です」
恢のからかいを軽く流しながら、夕鶴の瞳はきっと好奇心で輝いているはず。
随分前から気になっていた。何故あの二人はあれだけ嫌いあっているのか。
「理由なんて簡単だ。俺に霊力ってか力があるからだよ」
力。光輝がどれだけ頑張っても手に入れる事の出来ないものを恢が持っているから。
「え、それだけ?」
「多分な。俺はそれしか言われた事がねぇ」
煩いくらい絡んでくるらしい光輝。一度理由を聞いたら、霊力があるからと言っていた。
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