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そんなもの、恢が望んで手に入れた訳じゃないのに。
「……酷い」
小さくそれだけ呟いた。それが聞こえていたのだろうか、横から恢の視線を感じる。
そう言われた恢の気持ちが夕鶴にはよく分かった。ただただ怒りが込み上げたに決まっている。
「自分が好きで手に入れた訳じゃないのに、そんなので嫌うなんて酷いです。こんな力、いらないのに」
本心の混じった言葉に答えはない。泣きそうな自分の瞳を見たからか、それとも何も言えなかったからか分からないが。
そのまま無言だった。二駅先に着いて商店街を歩いている間だって、ずっと。
「姫、お前が気にする事じゃねぇよ」
不意に恢が言う。自分が視線を向けているのに気付いているだろうに、彼は前を見てるだけ。
「俺は確かにこんな力をいらないと思っていた時期があった。でもな、今は思ってないんだ」
「そう、なんですか」
何と言ったらいいのか分からない。だから夕鶴は、そう言うしかなかった。
もっと気の利いた言葉をかけられたらいいとは思う。でも、生憎自分はそこまで器用じゃなくて。
でも恢はそんな言葉が欲しかった訳じゃないらしく、頭に手を置いてきた。
「ほら、行くぞ」
手を繋ぐ訳でも引っ張られる訳でもない。でも、それでも。何かが繋がっているような気がして夕鶴は笑う。
土足で心の中に踏み込む事はしないでおこう。自分だって踏み込まれたら嫌だ。
自分達の力や血には関係のない話をする。今はまだ、夕鶴も恢もお互いの事に踏み込まないままでいいと思った。
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