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恢はどんどんと人の少ない方に進んでいく。路地裏と言えるような場所に着いた時、流石に少し不安になった。
「先輩、あの……」
「あぁ、気にすんな。あってるから」
自分の不安が滲んだ声に気付いたのか、恢は安心させるように優しく笑う。
それだけで安心する。恢に絶対的な信頼を寄せているのだと夕鶴も分かっていた。
「ここだ」
恢が立ち止まった場所は、地下に続く階段のある場所だった。ここにお守りがあるのだろうか。確かにそういう澄んだ空気はあるのだが。
「ここはまだ力の強いお守りを扱ってるんだ」
そう言いながら、躊躇う事なくその薄暗い階段を降りていく。自分はそれに着いていくしかない。
暗い。夕鶴の第一印象はそれだった。薄暗い電気に、全体的に暗い雰囲気。
それなのに其所此所で清浄な気配がある。不思議な場所だ。
「おや、天狗じゃないか。珍しいのぅ」
後ろから嗄れた(しわがれた)声が聞こえてきて、夕鶴の体が驚きで跳ねる。
振り向いた先にいたのは、小柄な体に黒いローブで顔を隠した老婆だった。
「お婆さん、脅かさないでよ」
「……主、我が分かるのか!」
どこか驚いたような嗄れ声に自分は首を傾げた。分かるとは何の事か。恢も驚いているようだが何故。
夕鶴の不思議そうな顔を見ていた恢は、酷く固い表情のままこちらを見てきた。
「お前、なんでこの人が女性と気付いた?」
問われても分からない。理由は分からないが、強いて言うなら直感がそう告げたから。
確かに体も顔も隠しているので、一目見たたけでは性別なんて分かりそうにない。
唸っている自分を見てため息をつく恢。それは流石に失礼ではないだろうか。
「ウィル婆さん。こいつにお守りを渡して欲しい」
「お守り?この娘にはもう加護がついておる。そんなものは必要ない」
彼はその言葉に眉を寄せる。夕鶴も同じような表情で老婆を睨むように見た。
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