ピーターパン症候群

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屋上の柵に手をかけぼんやりとしていた所に響いた声。 それは紛れも無く探していた桃色の声だった。 「なに驚いた顔してるネ」 知らず知らずのうちに俺の顔は無表情を崩していたようだ。 俺は慌てて表情を取り繕ろう。 そして、何よりも最初に聞きたかった事を紡いだ。 「お前、この後どうするんで?」 彼女は寂しげに儚げに、しかし何処か強そうな笑顔を浮かべて答えた。 「国に帰るヨ」 予想通りの答え。 そう、彼女とはもう会える事は無いかもしれない。 伝えるなら、チャンスは今だけ。 「神楽」 初めて呼ぶ彼女の名前。それはなんだかとてもむず痒くて恥ずかしくて、暖かで。 今までの想いが溢れて来るような錯覚に捕らわれた。 「なに?ソーゴ」 少し驚いた様に目を見開くもまた直ぐに先程までの笑みを浮かべる彼女。自分もまた、俺の名前を初めて呼んで。 「神楽、好きでさァ」 彼女はもう驚く素振りを見せない。 まるで全て分かっていたと言う様に。 「私も好きヨ」 ―あぁ、きっと君はもう先に大人への道を歩み出していたのか。まだ「子供」の道に足を入れていたのは僕だけ。彼女の表情を見て、そう察した。 「お前に会えてよかった」 この言葉は予測していなかったのか、彼女は頬を淡い桃色に染めた。髪と同じ色に。 そして満面の笑みを浮かべてこう言った。 「アリガト」 コレが、俺が聞いた彼女の最後の言葉。 そして、俺が見た最後の笑顔だった。
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