繋がる手の先

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「総悟、ね。いい名前」 男の名を口にすると満足そうに笑みを深くする女。 「今日は月は出てないけど、まるで月が側にいるような気分」 そして今までとは違う、やけに真剣な目をすると女は言った。 「私は神楽。…私と一緒に来ない?総悟」 今まで透きを見せないようにと無理やり冷静を保っていた沖田だったが、その言葉を耳に通すと目を見開いた。 そして自分の心が揺らぐのを感じた。 自分は警察、彼女は敵に近しい存在。 交わる事は許されない。 此所で前に進んだら自分は全てを失うかもしれない。 ―今ならまだ間に合う。 逃げる事は可能。 けれど、足が後ろへは動かない。 「あなたが、必要なの」 その一言で、沖田の意思は決まった。 全てを捨てても構わない。 もっと見ていたい。 これから先、彼女がどのような道を歩んでいくのか。 彼女がどのような苦しみに遭うのか。 彼女がどのような喜びに会うのか。 彼女がどのように死んでいくのか。 彼女が俺の前でどのような「姿」を見せてくれるのか。 この想いが何なのかは知らないけれど、この道以外は目に入らなかった。 そして先ほど後ろへは下がらなかった足が、前へはすんなりと進んでいった。 そうして取り繋がった手の先に見える物は天国か地獄か。 例え答えがどちらでも、それはとてつも無く楽しみな事だと二人は笑った。 end.
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