時の流れ(土神)

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「………止まらねェよ。止まったように感じるかもしれねぇけど、皆年を取る事は変わらない」 まだ余り地球の仕組みについて理解出来ていないのだろう、土方に取っては分かりきった答えを静かに返すと神楽は期待外れとあからさまに大きな溜め息をつく。 「なーんだ。時間、止まらないアルカ」 「止まってほしかったのか?」 「当たり前ネ。そしたらトシとずっと一緒にいられるアル」 恥ずかしさなど感じている様子を微塵も見せずに子供さながらの笑顔で言ってのける桃色を視界に捕えると、自然と土方の頬も僅かながらも笑みを象る。 「確かにそれは良いかもしれねェな。……でも、季節さながらの楽しみってモンが味わえなくなるのはゴメンだ」 「季節さながら?」 「あァ。雪合戦が出来んのだって、花見が出来んのだって、月見が出来んのだって、全部地球が回ってるからだろ?それが味わえなくなっちまう」 そこまで言うと徐に土方は視線を移す。何事かと神楽も土方の視線の先に目を向けて見れば、開け放たれた障子の先から見える物は、屯所の隅で一つ早咲きした明るい向日葵。時折吹く風になびけば日の光を浴びてキラキラと輝く。 「アレだって、そうだろ?」 「………」 何かを感じたのか向日葵に釘付けになっている神楽の姿に気付くと更に言葉を放つ。 「今俺たちのいるこの空間は、今俺たちが感じている気持ちは全部地球が回ってるからだ」 向日葵から視線を外した神楽はその一言に大きく一度頷くと、不意に元気良く土方の背中に手を回しては抱き付いた。 「じゃあ、今こうしてトシに抱き付けるのも地球が回ってるからアルナ!」 珍しくも優しい手つきで頭をなでられる心地よさと幸せを心の奥に感じる時、二人は同じ気持ちを描いた。 地球に感謝して、全てに感謝して。 (私達を出会わせてくれてありがとうございます) そうしてどちら共無く交わした口付けを、山崎が目撃して屯所中が大騒ぎになるのはまた別の話。 end.
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