20人が本棚に入れています
本棚に追加
「はぁ? 透明じゃね?」
「でも絵に描かれる時は、いつも水色みたいな薄い色があるじゃないか」
僕の問い掛けに、呀梛はカンジュースをぐびぐび飲み、そして一言。
「そりゃ表現だろ」
「ああそっか。表現だね」
「つーか、わかっててきいただろ」
「うん、ごめん」
呆れた顔をする呀梛。
僕は再びキャンバスに向き合って、そして呀梛に問い掛ける。
「じゃあ呀梛には何色にみえる?」
「森羅万象すべての色」
「どうして?」
まさか森羅万象すべての色、と言われるとは思っていなかったので、僕は呆気にとられながらきく。
呀梛はソーダをみつめながら、
「無色で透明、っていうのはよ、翳したら、どんな色も映す事ができるから、すべての色に変化できる……みたいな」
「なるほど……」
おもしろい考え方だった。
僕には、真似出来そうにない。
「あんたはどうなんだ?」
「僕? ……僕は、」
僕はソーダを一気に飲み干す。
そして、パレットに色を出して乱暴に、繊細に色を塗っていく。
「僕は、この色かな」
「水色……? いや、白か?」
限りなく白に近い、水色。
きわどい色に、呀梛も眉をよせる。
「空の色だよ」
「! ……なるほどなー」
呀梛は、空を見上げる。
僕は、カンジュースの缶を、コトリ、とコンクリートの床に置いた。
呀梛も、ソーダを一気に飲み干す。
「やっぱここはいいな。空が綺麗だ」
「うん、全くだ」
天気は快晴。
雲一つない。
「絶好の昼寝日和だな」
「昼寝かよ」
僕は、ふっと笑う。
呀梛も、笑った。
「そういえば、あんた名前は?」
「天泝 恭」
「へぇ……。恭先輩、とでも呼ぼうか?」
「いや、呼び捨てでいいよ」
名前、言って無かったんだっけ。
いまさら気付く。
「じゃあ恭。今、何描いてんの?」
「みる?」
僕は、キャンバスを呀梛の方に向ける。
呀梛はじー、とキャンバスを見入り、
「いい絵だな」
「どうして?」
「空が、綺麗だ」
描いたのはこの風景。
題名はもう、決めた。
「いいな。やっぱ恭は画家だよ」
「ありがとう」
そう、この風景。
これを、描きたかったんだ。
色着いた空の下で、僕らの居場所で、僕らは静かに笑った。
最初のコメントを投稿しよう!