終章:=空の色=

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「はぁ? 透明じゃね?」 「でも絵に描かれる時は、いつも水色みたいな薄い色があるじゃないか」  僕の問い掛けに、呀梛はカンジュースをぐびぐび飲み、そして一言。 「そりゃ表現だろ」 「ああそっか。表現だね」 「つーか、わかっててきいただろ」 「うん、ごめん」  呆れた顔をする呀梛。  僕は再びキャンバスに向き合って、そして呀梛に問い掛ける。 「じゃあ呀梛には何色にみえる?」 「森羅万象すべての色」 「どうして?」  まさか森羅万象すべての色、と言われるとは思っていなかったので、僕は呆気にとられながらきく。  呀梛はソーダをみつめながら、 「無色で透明、っていうのはよ、翳したら、どんな色も映す事ができるから、すべての色に変化できる……みたいな」 「なるほど……」  おもしろい考え方だった。  僕には、真似出来そうにない。 「あんたはどうなんだ?」 「僕? ……僕は、」  僕はソーダを一気に飲み干す。  そして、パレットに色を出して乱暴に、繊細に色を塗っていく。 「僕は、この色かな」 「水色……? いや、白か?」  限りなく白に近い、水色。  きわどい色に、呀梛も眉をよせる。 「空の色だよ」 「! ……なるほどなー」  呀梛は、空を見上げる。  僕は、カンジュースの缶を、コトリ、とコンクリートの床に置いた。  呀梛も、ソーダを一気に飲み干す。 「やっぱここはいいな。空が綺麗だ」 「うん、全くだ」  天気は快晴。  雲一つない。 「絶好の昼寝日和だな」 「昼寝かよ」  僕は、ふっと笑う。  呀梛も、笑った。 「そういえば、あんた名前は?」 「天泝 恭」 「へぇ……。恭先輩、とでも呼ぼうか?」 「いや、呼び捨てでいいよ」  名前、言って無かったんだっけ。  いまさら気付く。 「じゃあ恭。今、何描いてんの?」 「みる?」  僕は、キャンバスを呀梛の方に向ける。  呀梛はじー、とキャンバスを見入り、 「いい絵だな」 「どうして?」 「空が、綺麗だ」  描いたのはこの風景。  題名はもう、決めた。 「いいな。やっぱ恭は画家だよ」 「ありがとう」  そう、この風景。  これを、描きたかったんだ。  色着いた空の下で、僕らの居場所で、僕らは静かに笑った。  
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