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吹き出した血でキャンバスはすでに描かれていたから、僕はただそれにつけ加える事しかしなかったが。
「ここは君の居場所じゃない。わかったら帰りなよ。ここにいられると迷惑だ」
僕がそう呟くと、男は一目散に悲鳴をあげ泣きながら逃げていった。
全く情けない。
僕はキャンバスと向き合った。
ただ血まみれのキャンバス。
僕自身の頬に返った血を、僕は手の甲でただ拭った。
触れた口元が、歪んでいた。
「……呀梛、僕、描けない理由が、たった今わかったよ」
「……言ってみろよ」
「僕、血の中にいるのが好きだ。今もこうして立っているけど、この瞬間も狂い果てそうで怖い」
歪んで歪んで歪んでいる。
だから僕は描けない。
歪んでいる自分に、気付いてしまった。
だから僕は、描けないんだ。
こんな歪んでいる精神状態で、描けるわけも無かったんだ。
「呀梛、僕は本当は君を描きたかった。でも君を描いたら血の中に君を描いてしまいそうで怖いんだ」
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