第三章:=描けない理由=

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 吹き出した血でキャンバスはすでに描かれていたから、僕はただそれにつけ加える事しかしなかったが。 「ここは君の居場所じゃない。わかったら帰りなよ。ここにいられると迷惑だ」  僕がそう呟くと、男は一目散に悲鳴をあげ泣きながら逃げていった。  全く情けない。  僕はキャンバスと向き合った。  ただ血まみれのキャンバス。  僕自身の頬に返った血を、僕は手の甲でただ拭った。  触れた口元が、歪んでいた。 「……呀梛、僕、描けない理由が、たった今わかったよ」 「……言ってみろよ」 「僕、血の中にいるのが好きだ。今もこうして立っているけど、この瞬間も狂い果てそうで怖い」  歪んで歪んで歪んでいる。  だから僕は描けない。  歪んでいる自分に、気付いてしまった。  だから僕は、描けないんだ。  こんな歪んでいる精神状態で、描けるわけも無かったんだ。 「呀梛、僕は本当は君を描きたかった。でも君を描いたら血の中に君を描いてしまいそうで怖いんだ」  
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