序章:=白の降る街=

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 画材を持って屋上に上がった。  屋上はうっすら白かった。  僕は白を払って、屋上のコンクリートの床にごろんと寝転んだ。  背中が異常に冷たい。  真っ直ぐ上には高い空。 「………」  もし僕が、ここで一人死んだとしても、世界は何も動かない。  もし僕が、ここで一人叫んでも、君は気付かないだろうね。 「………戯言だね」  立ち上がり、画材に向き合った。  真っ白なキャンバス。  塗る色は、 「何してんだ?」 「………呀梛」  筆を止める。  後ろを振り向かなくても、僕には誰か、わかっていた。 「……描く気無くした」 「そりゃ悪かったな」  僕の隣に呀梛は座り込む。  僕は筆とパレットを下に置いた。  パレットには何回も出された何色もの絵の具が乾いている。  今日僕が出した色も、乾きかけていた。 「……今日も暴れてきたんだね。また傷、増えてるよ」 「オレが何処で暴れようが、オレの勝手だろうが」 「それもそうだね」  ごめん、ただの戯言だよ。  僕はそう呟いて、再び筆を手に取った。  
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