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誰もが榛名に目をとられていた時、榛名に飛ばされた男が呻き声を上げた事をきっかけに、今まで呆然としていた男達がハッとしたように榛名を取り囲む。
「調子にのってんじゃねーぞッ!!」
「ダメだ!」
俺の制止も虚しく、男達は一丸となって榛名へ襲いかかり、次の瞬間にはその大半が一瞬で気を失った。
一部の頑丈な男は地面をはいながら呻き声を上げている。
たぶん今ここで榛名によって倒れた者全員が何が起きたか分かっていないだろう。
―速い…―
俺も見えなかった。
昔とは比べ物にならない速さだ。
榛名はゆっくりと腕を下ろし、まるで獲物を探す獣のような鋭さで辺りを見回している。
俺はその間動くことができなかった。
今榛名から目を放してはいけなかった。
意識を榛名以外に向けたら最後、榛名の動きには絶対に反応できない。
やがてその瞳が俺を捕らえると、榛名は地面を蹴り上げ俺めがけて突進する勢いで襲いかかってきた。
明らかに人間では出すことの出来ないスピードに俺は避けるのが精一杯だ。
避けたは良いが榛名はすぐにキューブレーキを掛け、立て直し次の攻撃を繰り出そうと腕を振り上げながら振り返ってくる。その姿は実に楽しそうで、もはや俺を誰かも認識できない様だ。
無理な体勢で、それも紙一重でしか避けることができなかった俺は、当然次の攻撃などかわせるはずがない。
「チッ!!」
俺は歯を食い縛り、両手をクロスさせて間近で繰り出される榛名の右手を直接受け止めるしかなかった。
ガキィンッ
素手同士では絶対に聞こえるはずのない音が辺りにこだまし、同時にぶつかった所から激しい火花が散った。
なんとか受け止められたのは良いが、衝撃と負荷が半端ない。
俺の力では踏ん張っても押されるのは当たり前で、膝をついてしまった。
『…ッ!止まれハルナ!!』
さすがに危機を感じて、一か八かの賭けに出ることにした俺は、今ココにいる者ではおそらく俺と榛名しか理解できないだろう言葉で呼びかけた。
刹那、榛名はハッとしたように力を緩め、目の前の俺を凝視した。
『ルカ…』
呆けたように呟いた榛名は次の瞬間には悔しそうに表情を歪め、きびすを返して歩き出した。
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