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だが、いくら身内である俺が言ったところで、榛名の事情はどうにか出来る問題ではなく、結局榛名は小学校を卒業するのと同時に行き先を教えられる事もなく日本へと行ってしまった。
あの頃の俺は、もう一生会うこともないのだろうと思っていた。
当然榛名自身もそう思っていたのだろう。
スイスで牧師をしていた叔父の手伝いと言う名目で家を追い出された時もまさか榛名に会えるとは考えもしなかった。
だから、そのまま日本の高校へと入学して榛名を見つけた時は一瞬自分の目を疑ったし、信じきれなかった。
何より、また昔のように一緒に過ごせるのだと思うと本当に嬉しかった。
だが、その榛名は俺の知っていた榛名ではなく、いくら話し掛けたとしても、もう昔のような笑顔は俺に向けられることはなかった。
中学の三年間の内に何かあった事は明確なのだが、榛名と一緒の中学に通っていた人間はみな口々に『知らない』と言い張り、何も教えてはくれなかった。
そんな事では当然榛名との関係も何か変化が起こるという訳もなく、再会当時の状態がもう一年も続き、二年生になってもソレは覆す事のできない事実だった。
誰も自分に関わるなとでも言っているような、あの人を寄せつけようとしない榛名のオーラでは友達などいないのだろう、学校で誰かと話している姿など見たことがない。
それに増して、時々ケンカでもしているのか、傷だらけで学校に登校してきたり、先生に指導されていたりしているせいか、いつの間にか他クラスの生徒や後輩、ましてや先輩達の間でも悪い噂が立ちはじめ、たちまち学校中で一目おかれる存在になってしまっていた。
「榛名……」
―助けてあげられたら良いんだけどな―
考えれば考えるほど答えの出てこないその問題に俺はますます気落ちしてくる。
ポツポツと雨が降り出した。
その湿った空気と聖堂に響く寂し気な雨音は、まるで俺の心をそのまま映し出いるかの様な気さえ、今の俺には感じられた。
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