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あれは忘れもしない、桜の咲き誇る今からちょうど一年前の放課後の校舎。 学校生活もまだ一週間という具合だろうか。 こらちでの暮らしにまだ慣れきれていなかった俺はすぐに帰宅するでもなく、ただ休みたいという一心で落ち着ける場所を探し一人校内をうろうろとさ迷っていた。 日本独特の美しい茜色をした夕日や朱く染まった校舎が、嫌でもここは俺が生まれ育った地ではないと物語っている。 俺は何気なく廊下をうろつきながら、ふと向こうでは滅多に見ることの出来ない、無駄に校舎裏にまで出来ている桜並木のへと視線を泳がせた。 刹那、俺の瞳はずいぶん昔、幼い頃に見た、まだ記憶にも鮮明に残る面影を帯びた人物を写していた。 数人の柄の悪い男子生徒に囲まれていたその人物こそ榛名だった。 ―なんで…榛名!?― 俺は混乱している頭で必死に考えたのだが、その間にも榛名は男達に殴りかかられている。 紙一重で避けてはいるものの、俺は榛名の纏う嫌な空気に思わず走り出していた。 榛名にもう一度会えて嬉しかったが、とにかく今はそんな事よりも先に、あの惨状をどうにかしないといけないと直感的にそう感じていた。 階段を駆け降り、靴を履き変えるのも忘れ、俺が榛名の元へとたどり着いた時には、もうすでに半分以上の男たちが苦しそうな声を上げ、地面をはいずり回っていた。 そしてその他のまだ立つ事の出来ている数人は、皆冷や汗を浮かべ、一定の距離を保ったまま緊迫した表情で榛名を睨み付けていた。 榛名は自分から動こうとはせず、あくまで相手の動きを待っていて、その状況を見るに、どちらに非があるか一目瞭然だ。 だが、榛名からはやはり何かピリピリしたようなそんな嫌な空気が感じられた。 「榛名……?」 恐る恐る名前を呼ぶと、俺が来た事に気づいていなかったらしい榛名は、驚いた様子で俺を振り向いてきた。 その瞳が俺を捕らえると同時に榛名は拍子抜けした様に目を見開いた。 「…………?」 無言で疑問符を浮かべる榛名からはもう先程の空気は感じられない。 だが、そんな榛名の隙をアイツ等は見逃す訳もなく、中心人物らしき男がここぞとばかりに榛名に向けて拳を振り上げてきた。 「!?榛名っ……!」 とっさの事に反応が遅れた榛名が体制を整える前に、俺は榛名を守るように男の前にたち塞がった。 .
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