第五章 オレンジウイング

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五分後。 オレンジのF-01はエプロンに戻ってきた。 高周波数のエンジン音が地面に響き、瀬戸将一郎の耳にも聞こえていた。 亜熱帯の気候による気温で暑く感じる。 燃料が焼けたような匂いに混じって煙草臭い匂いが隣から漂ってきた。 濃い紫煙が空に昇っていくのに反比例して紫煙は薄まっていった。 「少し失礼します」 吉沢大尉は煙草を吹かしながら言った。 「ああ、いえ。気にせず」 吉沢大尉は見た目はイカツイが外見からは想像出来ないほど、暖かい優しさを持っている。 趣味は手芸で、竹の小篭やエプロンなどをよく作っているらしい。 彼や他の青い飛行服に付いている第六航空団のアップリケはすべて彼の手作りによるものである。 「期待の新人だな」 「はい。有希は間違いなく100万人にひとりの逸材です」 「いや、もう一人の子の方だよ」 「連城の方、ですか?」 吉沢大尉は煙草の煙を肺までゆっくりと回している。 「有希中尉は確かに本物や。100万人にひとりの逸材と言っても過言ではないだろう。だが、連城小尉も人並みではない」 訓練空域にラプターが飛び立っていく。 ここからだと推力偏向ノズルの構造と動きがよく分かる。 ラプターはすぐに見えなくなった。 「訓練につき合ってくれている技術研究開発部隊のパイロットが私に嬉しそうに言っててな。『吉沢大尉、原型機の操縦をあんなに簡単に出来てしまうなんて、さすがは北基地の<英雄>ですね』なんて。一方的に話すくらい興奮していてな」 そう言っている吉沢大尉もなんだか嬉しそうだ。
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