第五章 オレンジウイング

24/28
815人が本棚に入れています
本棚に追加
/247ページ
デッキに向かうと大島が準備に取り掛かっていた。 酸素ボンベが二本用意され、穏やかな海面を背にして、スキューバダイビングの格好をした大島が待っていた。 「お待たせ」 「遅かったじゃないか。…連城のやつはどうした?」 僕は準備を進めながら、 「あいつは潜らないらしい」 と、言った。 「そうか。まあ、いいや」 大島はすぐに納得したような顔をする。 たぶん、こうなるであろうと見越していたのかもしれない。 だから酸素ボンベが二本しかないのかもしれない。 装備の装着が全て終わると、大島にOKサインを出す。 「そういえば。お前、スキューバの経験は?」 「高校の時に体育の選択授業でやったことがある」 「どんな学校だ!? まあ、いいや。経験者ならとやかく言うつもりはない」 そう言うと、大島は海面に飛び込んだ。 僕もそれに続く。 海は思ったより冷たく、久しぶりの酸素ボンベのかさばりにちょっと手こずった。 エアーチェック、しっかりとエアーが出ている。 「よし、潜ろう」 大島の合図で海に潜る。 それに続いて、僕も潜る。 海の中は青く透き通っていて、エアーの音以外、全く何も聞こえない無音の世界が広がっていた。 シューッ、シューッ、シューッ… 小粒の酸素が大勢で海面に登っていき、静かに消えた。 大島は海面を這うように進んでいく。
/247ページ

最初のコメントを投稿しよう!