第五章 オレンジウイング

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国籍不明機はどこの国の戦闘機か分からない以上、むやみにF-01の姿をさらすわけにはいかない。 さらせば飛行特性、空力特性、空気抵抗などが分かってしまうかもしれない。 だからこの基地で訓練が行われているというわけか。 しかし、そんな基地にアメちゃんが簡単に他国の戦闘機を入れるはずがない。 その条件がF-01のデータ回収というわけだ。 実際にACMをやればある程度のデータは取れる。 第二次世界恐慌の悲劇によって、新しい種類の戦闘機開発に注ぎ込むお金がないアメリカにとって、またF-15との優劣が分かる意味でも、一石二鳥なのだ。 長い長い岩場の谷を泳いでいく。 泳ぐといっても、スーツに取り付けられたスクリューを使っているから、事実、方向調整で足を使うくらいだ。 谷はどこまでも続いているかのようで、時たま、お魚たちが顔を出しては有希を導くかのように前を泳いでいく。 海は相変わらず広く透き通っていて、まるで浄水場から水を引っ張ってきていることを感じさせるくらいきれいだ。 谷は狭いままで、ある一点で一気に開けた。 十メートルほど前方に大島が止まっていた。 隣まで行くとスクリューの電源を切る。 電動モーターの音が消え、静寂が生まれた。 大島は僕に気付いているのにも関わらず、ただ一点だけをピクリとも動かず眺めていた。 視線を追っていくとそこには街があった。 旧沖縄市… 二人は黙ったまま、かつて人が住んでいた場所を見つめていた。 エアーは残り半分になりかけていた。
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