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クルーザーは海を滑り、帰る場所の陸に向かっている。
すっかり乾ききった髪の毛は、風にたなびかされ、後方に引っ張られていく。
そろそろ前髪を切らないとな。
有希は目に入った数本の髪の毛を左右にどけた。
大島は隣のチェアーに雑誌を読みながら寝っころがり、やや暗い顔をしている。
僕もなんだか暗い気持ちでいっぱいで何を話していいのか分からない。
何も悪いことをしていないのに、理不尽な時の流れが胸を圧迫する。
さっき見てきた全ての物が、ただ残酷で無言のまま問いかけてきた気がする。
僕はあそこで何を見てきたのだろうか?
……
そうだ、街を見てきたのだ。
目の前に広がっていたのは海に「沈んだ」一都市だった。
現在は旧沖縄市といわれる場所に僕たちはいたのだ。
建物や道路が一部崩壊していたが、ほとんどが無傷のまま残されている。
民家なども屋根が一部損壊しているのを除けば、本当に海中都市のまんまだ。
「雑誌できれいだったからここに来た」
大島は不意にボソッと言った。
「一度見てみたかったんだ、海中都市を」
大島は雑誌に顔を埋めたまま、表情を隠しながら続ける。
「世界遺産にはなり損ねたけど、写真で見る限りでは素晴らしい所だと思った。だが、実際見てみたら全然違ったな…」
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