序章 Take off.

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U.G.30 05/27 20:08 ■「北基地」 オペレーションルームの窓に斜めに水滴が表れる。 その水滴たちが束となって、窓のガラスを濁す。 この時期、フィリピンの海に発生する台風の雲が近づくにつれて勢力が弱まり、最終的に小雨程度になってアーカレッドにやって来る。 「雨、か…」 有希はぼそりと呟く。 雨にいい思い出が僕にはなかった。 僕は水が嫌いだ。雨も嫌いだ。水泳もあまり得意ではない。 だからこんな天候でのミッションは願い下げなのだが… 窓の外は既に漆黒の闇夜が支配していた。 有希は機体を見に行くことにした。 雨で機体が壊れることはない、とは分かっているが、それでも一抹の不安が取り除けず、自然と足取りが早くなっていった。 機体はアラートハンガーに収められている。 普段はスクランブル待機に就く機体が収納されているが、今日は特別に置いてもらった。 ハンガーのLEDライトに照らしだされた、その大きな機体に触れた。 F-15-G、愛称は「イーグルファイター」 アーカレッド航空防衛隊唯一の対地対艦攻撃機。北基地に少数しか配備されておらず都合パイロットはたったの8名。 機体の両ハードポイントに装備されたミサイル。「ATG-01」近接対艦ミサイル。30年前にアメリカから提供された旧式のミサイルだ。第三次世界大戦で使われた汎用兵器で短射程、持ち運びが便利だが、壊れやすい。 有希はむき出しのシーカーに触れる。 冷たかった。 その冷たさが有希を不安にさせる。
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