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「ここが海の見える床屋『sea side』かあ。」
海沿いの道にぽつんとたっているコンビニくらいの建物の前で俺はそう呟く。
中には人がいるようで、せわしなく動いている人影が見える。
ふと右手を見ると女物の長財布。ここに来る途中で拾ったものだ。
持ち主の手掛かりがないかと中身を見たら、一枚の名刺が出てきた。
名刺には、
「海の見える床屋『sea side』 スタイリスト 水面唯」とあった。
『sea side』は海原市では有名な床屋でその名の通り海の見える床屋をウリにした店だ。
さらに他の店と比べ料金が安いと評判の店である。
俺も知っていた店なので、直接届けに来たというわけだ。
カランコロン。
「いらっしゃいませ~。」
店内は白を基調とした壁に理容の椅子が鏡とともに並んでいた。
シャンプーの為の台は椅子とは離れたところにあった。
待合には客はいなかった。ただ、一人だけシャンプーをしている客がいた。
店内を見ているとカウンターのスタッフらしき男が、
「どうぞ、すぐできますよ。」
と、声をかけてきた。
「いえ、今日は髪を切りにきたんじゃないんです。」
俺は慌ててここに来た理由を話した。
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