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今日も元気に出かける娘を、ママさんは椅子に反対向きに座り、背もたれに両腕と顎を乗せて、優しい微笑みを浮かべながら見送る。
「頑張って来いよ……」
娘には聞こえない距離とボリュームで、そう呟いた。
時計と携帯電話も忘れずに鞄に入れる。
真実が通っている高校は、携帯電話の持ち込みは原則として禁止されているが、そんなものは大抵バレなければいい話で、純粋な真実でさえ携帯電話はバッチリ装備している。
白い壁と、黒い下駄箱やドアといった、綺麗に整頓された玄関で靴を履く。
真実が通う聖鏡学園は、県内でも上位に入る優秀な成績を修める学園で、その分校則も厳しいはずなのだが、携帯電話の件で、その厳格な校則は廃れつつある。いやむしろ生徒には気にもされていない。
巧妙に考えられ万端整った法則ほど、付け入る隙はいくらでもある。
踵をトントンと鳴らし、勢いよく玄関のドアを開けて出て行く。
空は文句のつけようもない快晴。
少し遅れそうになったので時間を短縮するために、真実は外へと続く階段に出る。
そこから自宅である高層マンションの最上階から飛び降りる───ことはできないので、そのまま階段を駆け降りる。
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