夜を喰む者(人情編)

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母子で着席して、両手を合わせて行儀良く、全ての命に感謝していただきます。 今の日本では「全ての命に感謝して」などという思想は廃れていて、ほとんどの人が無意識で「いただきます」と言葉だけで済ませてしまう事が多い。 余談となってしまうかもしれないが、結構大切な事である。 「お父さんは今日もお仕事なの?」 「そうなのよ~。もう四日よ?こないだなんか一週間。ず~っと勤め先で。私の事なんか忘れてるんじゃないかしら?」 「有り得るかも」 肉じゃがを頬張りながら言う。 勿論口は手で覆っている。 食べている時喋るならこうするのが食事のマナーというものだ。 ほどなくして、まだ母親が半分も食べきっていない頃、真実は全て平らげて、食器をキッチンへと持って行く。 「ご馳走様でした」 ……これも大事。 意味をよく考えてから言ってもらいたい。 「相変わらず早いね~」 「そうかな?」 食器を洗い始めた真実は首を傾げる。 こう見えて真実は大食漢だ。 女の子に「漢」はどうかと思われるが。 自覚しているのか、本人も否定はしない。 その実、真実の胃袋は四次元そのものだ。 ……いや。
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