夜を喰む者(人情編)

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ブラックホールと例えた方が判りやすいだろうか。 とにかく、まず普通の食事ではこの通り、ものの数分で完食してしまう。焼肉や回転寿司などに連れて行った日には、皿の山が築かれる。 しかも主に三つか四つである。 ……そして驚くべきは、いくら食べても太らないという何とも羨ましい体質である。 「カロリー気にしないの?」と友人に聞かれ、「全然」と答えたことがある。 現代の、痩せ型を目指す若者からすれば奇跡の身体だ。 腰まで伸びた蒼い髪に、七三分けの前髪を揺らしながら、リズミカルに自分が使った皿を洗う真実に、時計を見てふと気になった早乙女ママが言う。 「真実」 「んー?」 「さっくん起こしに行くならもう行かないと間に合わないんじゃない?」 ママの言葉に思わず冷蔵庫の隣に掛けてある時計を見る。 現在、七時四十五分。 「あっ、ホントだ。じゃあ悪いけど、洗い物残していくね」 「えー。ちゃんとやってよ~」 間抜けた声で、椅子の背もたれに寄り掛かり、頭だけキッチンの方に向ける。 当然、幸恵から見て真実は上下逆さまに見える。
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