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「それで、一体何をするのさ?」
手伝うとは言ったものの、翔は龍牙が何をするつもりなのか知らない。それ故の問い掛けに、龍牙は自身の武器である槍を召喚し、視線を落とす。
「俺は、弱い……」
大会での出来事を思い出して槍の柄を強く握り締める龍牙。悔しさに染まった表情を目にした翔は、何も言わずに言葉の続きを待つ。
「この特訓で基礎の底上げをしても、奥の手が無ければ必ず負ける。だから、先生に教えてもらえない、武器の能力を磨こうと思う」
龍牙の武器の能力、〈高速化〉。時間の流れが遅く見える中で、使用者である龍牙だけが通常通り動くことができる。他者からすれば、龍牙が高速で動いているように見えるだろう。
だが、そんな力だからこそ反動も大きい。一時的に限界を超える動きは身体に激しい疲労を与え、発動後は満足に動くことができない。
「俺は能力を知ってから、発動後に潰れるこの力はあまり使わないようにしてきた。でも、今必要なのは力だ。デメリットを恐れて使わないんじゃ、能力の意味がない。使って潰れるなら、潰れないようになればいいだけだ」
顔を上げた龍牙に、先程までの悔しさはない。
そこに満ちていたのは、自信。必ずやり遂げるという決意と、やってやるという強い意志。
「だから、翔――」
瞬間、龍牙の姿が消える。彼のいた地面が少しばかり削れ、土煙が広がっていく。
「何度でも付き合ってもらうぜ?」
彼の移動した先は、翔の背後。槍の矛先を翔の首に宛てがい、一瞬とはいえ能力を発動したことで、その表情は疲労で歪んでいた。
対する翔も、驚くことなく両手に剣を召喚し、挑発的に口元をニヤリと歪め、一言。
「何回潰れるか見物だね」
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