再びの学園行事

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願ってもない展開だ。当然、断る理由はない。 「ホントか!? 助かるよ」 俺の差し出したリンゴジュースを、まるで宝物を扱うように丁寧に受け取った桐沢は、持つ物が無くなった俺の右手にコーヒー牛乳を置く。 そうしてお互いの所持品が変わったところで、桐沢は今にもキラキラと輝き出しそうな眼差しを手中の物に向けた。 好きなんだな、リンゴジュース。見た目通りと言うか、妙に納得。 目的の物も手に入ったし、そろそろ教室に戻ろうかと思った矢先、リンゴジュースから視線を外した桐沢が、俺を見て再び開口。 「……神城……良い人」 無垢な瞳でそんなことを言われたら照れる……。ってか、ちゃんと俺の名前を覚えててくれたんだ。 「まぁ何だ、同じ新入生だし、困ったことがあれば助け合おうぜ」 よく見ていないと気付かないぐらい小さく頷いた彼女は、踵を返して廊下を歩いていく。その背中が早速パックにストローを挿していることに気付き、思わず笑みが零れた。 そして、教室に戻ろうとして何気なく自販機に視線を向けた俺は納得する。 「なるほど。だからか……」 わざわざ交換を提案したのも、ジュース1つで良い人扱いされたことも、全てはボタンに浮かび上がる“売切”の文字が答えを示していた。  
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