再びの学園行事

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キョロキョロとあちこちに視線を彷徨わせていたそいつは、偶然にも俺と視線がぶつかる。途端に表情を僅かに綻ばせ、ぴょこぴょこという擬音が付きそうな足取りでこちらに向かってきた。ばっちり目が合った手前、ここで動くわけにはいかない。 そうして目の前に駆け寄ってきた人物に向かって、俺は口を開いた。 「どうした、桐沢?」 俺とは逆に、桐沢が口を開く気配はない。その代わり、手に持っていたお題のカードに書いてある文字を、俺に見えるように眼前に掲げた。 「……新入生?」 出た、“物”じゃない借り物。しかも引いた本人も新入生だ。 「……2人……クラス……忘れた。……丁度……神城」 ようやく口を開いた桐沢は端的な単語を発する。えーっと、つまり、俺と萩野がどのクラスか忘れて困っていたところで、丁度俺を見つけたってことでいいんだよな? 「……来て」 俺の手を取った桐沢はスタート地点に駆け出す。本来なら引っ張られる形だけど、身長差……というより、歩幅の関係上、急ぎ足でも十分並ぶことができた。本気で走ってるわけじゃないから当然か。 最初から断るつもりはなかったけど、数十分前に言った、困ったら頼れって言葉を実行してくれてるみたいで嬉しかった。  
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