再びの学園行事

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特に何かイベントが起こることもなくスタート地点に到着。桐沢からお題を受け取った実行委員は、書いてある文字を確認してから俺へと視線を移す。結果は言うまでもないだろう。 《1年E組、クリアです! 新入生が新入生を連れてくるというのもおかしな話ですね》 再び桐沢に手を引かれて退場門からトラック外に出る。通行の邪魔にならないように隅の方に来たところで、彼女はようやく足を止めて振り向いた。 「……助かった。……ありがと」 小さな口から漏れたのは感謝の言葉。前も思ったけど、桐沢から感謝されると何だか照れる。 「言っただろ? 困ったら頼れって。俺は嬉しかったよ」 頬を掻きながらそう言えば、桐沢は唐突に顔を附せた。どうしたんだ? 「……とにかく!」 意外なことに、桐沢が声を強めて言葉を発する。まともに話したのは今日が初めてとは言え、桐沢らしくない態度に思わず驚く。 「……いつか……お返し。……佳奈……頼って」 決して俺と目を合わせることなく言い切った桐沢は、そのままE組の陣地に向かって駆け出した。俺はといえば、突然のことに声を出す暇もなく、ただただ彼女の後ろ姿を眺めていた。 「…………」 そういえば、俺は何をしようとしてたんだっけ? 「……トイレ行くか」 本来の目的を思い出して足を動かすが、胸のモヤモヤが晴れることはない。結局あの態度は何だったんだよ?  
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