8110人が本棚に入れています
本棚に追加
「そう簡単に当たるかよ」
炎と雷が弾け散ったその向こう。得意気な笑みを浮かべる龍牙は前に向き直り、ラストスパートのカーブを駆ける。
睦月も舌打ちを漏らしつつ再び駆け出すが、賭けに負けた彼が追い付けるはずもなく、龍牙は天高く拳を突き上げながら堂々とゴールテープを切り抜けた。
《ゴーーーール! ゴールです! 長き戦いを制し、見事勝利を手にしたのは、1年B組! いやー、圧倒的な勝利でした。後続がまったく来ない。そんな中でも最後まで食らい付いたA組に皆さん拍手をお送りください!》
グラウンドが湧き起こる歓声と拍手に包まれる中、龍牙と睦月は上下に肩を揺らしながら睨み合う。いや、睦月が一方的に鋭い視線を送っていると言った方が正しい。
(あー、これはめんどそうだな……)
気まずい空気に思わず苦笑いの龍牙。そんな彼の想いが通じたのか、睦月は睨むのをやめて踵を返す。
「次は負けない」
去り際に放った言葉は龍牙に届いていたのか、いないのか。
何にせよ、カッコ良く退場する睦月の首筋を冷たい汗が伝う。
(ヤバい。架神さんにどやされる……)
冬魔本人にそのつもりはないのだが、そのことを知らない彼の心中は穏やかではなかった。
最初のコメントを投稿しよう!