8111人が本棚に入れています
本棚に追加
「いや、俺は名字の方が呼び慣れてるし、このままでいいだろ」
「…………」
蹴られた。脹脛(ふくらはぎ)を思い切り蹴られた。
「なら、身体に染み込ませるしかないようね」
そう言って今度は握り拳を作る如月。マズい、コイツがパンチ1発で済ますとは思えない。
「冗談に決まってるだろ、皐月」
仕方なく名前を呼ぶと、如月は小さくぼやきながら拳を引っ込める。女の子なんだから、もっとおしとやかにできないものだろうか。
まぁ、おかげでって言い方は変だけど、気恥ずかしくはなかったな。
チラッと目を向けた時に見た如月の横顔が、とても嬉しそうに見えたのは気のせいにしといてやろう。
気付けばそこはすでに寮。エントランスを通ってエレベーターに乗り込み、7階へ。途中で止まることなく目的の階に到着した俺達は、揃ってエレベーターから降りる。
特に会話がないまま廊下を進み、自分達の部屋の近くまで来た所で、今まで沈黙を決め込んでいた如月が口を開いた。
「そうそう。アンタだけ私の名前を呼ぶのは不公平だから、私も呼んであげる」
「へ?」
突然すぎて間抜けな声を出してしまった俺を抜き去り、如月は自分の部屋の鍵と扉を開ける。
「おやすみ、光輝」
言うや、彼女は逃げるように部屋の中に消えてしまった。
1人取り残された俺はゆっくりと鍵を開け、部屋の中へ。なんか、違和感がハンパない。これは慣れるまで時間がかかりそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!