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たっぷりと朝の空気を堪能したした後、窓を再び閉める。
そして、リューカは自分の部屋を見渡した。
部屋の家具はベッドに勉強用の机に箪笥と最低限なものしかない。
小物もほとんどなく、良くいえばシンプル、悪くいえば生活感がない部屋だ。
リューカ自身がごちゃごちゃしている部屋が嫌いなのでこういう部屋なのだが、
まったく知らない人がこの部屋を見たら、女の子の部屋には見えないだろう。
ただ、机の上にはまだ一度も袖を通してない深緑色の制服が綺麗に畳んで置いてあり、その隣には丈夫そうな革の黒い手提げ鞄もあった。
リューカはそれを見て頬が弛んで笑顔になる。
今日は、ヴィラート第三軍学校の入学式。
子どもの頃から夢見ていた軍人になれる第一歩をやっと踏み出せるのだ。
嬉しくない筈はない。
リューカかは首元に手をやり、服の下に下げていたネックレスを取り出す。
ネックレスといっても装飾用のものではない。
細く丈夫な鉄の鎖に金属の板を付けただけのもの。
金属の板には文字が刻んである。
刻まれているのは母の名前。
そして、リューカには意味がわからない変わった形をした文字。
「母さん、私、母さんみたいな軍人になるからしっかり見ていてくれ」
リューカはそう呟くとぎゅっと母の名が刻まれたそれを握り締めた。
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