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花音はつい2週間前に引っ越したばかりだった。
正確には、帰ってきた、と言うべきだろうか。
閑静な住宅街にある高層マンション。そこは、産まれた時から両親が亡くなるまでを過ごした家、だ。
両親を亡くしてから、花音は父方の祖父母の家で暮らしていた。いわゆる、〝父の実家〝だ。
愛する両親の突然の他界。もちろんそれは辛く苦しいものだったが、花音にとって祖父母との暮らしはさほど不自由ではなかった。
祖父母は必要以上に優しかったし、実家はマンションからわりと近かったため、環境があまり変わらなかったからだ。
とはいえ、祖父母は落ち着き次第マンションに移り住むつもりでいた。花音にとっては、やはり住み慣れた自宅の方が居心地がいいだろうと。
花音はそれを頑なに拒否し続けた。
当時新築だったマンションの方が広くてキレイなことも、学校が近くて楽なことも、分かっていた。
ただ、どうしても帰りたくなかったのだ。
両親の思い出が詰まった場所には……帰りたくなかったのだ。
その後、マンションはどうするわけでもなく、祖父母の手によって管理されていた。
いつかは戻れる時が来るだろう。そう思い、二人はひたすらに維持していた。
ところが、彼女は大学を出るまで祖父母の家で暮らし、働いてからもなお、職場付近に部屋を借りて暮らしていた。
そうして時は過ぎ、気がつけば命日から13年が経とうとしていた現在。
祖父母の内に秘められた密かな願いは……思わぬきっかけで叶うことになったのだ。
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