泥臭くても

6/7
前へ
/354ページ
次へ
タクシーの窓からは相変わらず賑やかな夜景が流れていく。 聞こえてくるラジオは「来年消えそうな芸人」の話題で盛り上がっている。 ありがたいことに俺たちの名前はあがっていないけど、たまたま俺の耳に入っていないだけかもしれない。 いま一番旬な芸人。テレビで見ない日はない。小学生がなりたい大人。 とにかく今の俺たちは乗りに乗っている、ようだ。でもブームなうちは、本当の人気じゃない。 このブームは、きっともうすぐ、驚くほどあっけなく、過ぎ去っていくんだろう。 「なあ、春日ぁ」 「なんじゃい」 「俺たちさあ、もうすぐ終わっちゃうのかなあ」 俺は春日の肩にもたれかかって、窓の外を眺めながら独り言のようにそうつぶやく。 春日は反対側の窓を見ながら、こういったんだ。 「ばかたれ、まだ始まってもないだろ」 俺、おまえと居られてよかったよ。 なあ、春日。 俺たちはこれから何度もくじけて、すっころぶかもしんねえけど、 それでも2人でまた起き上がっていこうな。 希望の光なんかさ、なくったっていいんだ。 お前とこうして、生きて行けるなら。
/354ページ

最初のコメントを投稿しよう!

419人が本棚に入れています
本棚に追加