419人が本棚に入れています
本棚に追加
あれもやっぱり夏の日だった。
合宿にOBの人たちが来ていて、練習の後は毎晩飲み会になった。
最終日の夜、きつい練習を何日も続けてきた俺たちはかなりハイだったんだと思う。
あるゲームで、負けたやつがOBの先輩とキスをすることになった。
残ったのは俺と谷口、そして春日。
腕立てふせで最初にくたばった奴が負け。
誰もが俺が負けると予感した。
ところが開始してすぐに、あいつがくたばった。くたばったふりをしたってことは、ずっとあとになってから知った。
オサベさんというOBと春日は、周りからの口笛やら歓声やら
とにかく耳をつんざくような騒音に背中をおされるように、キスをした。
俺は、一人静寂の中にいた。
二番目に負けたやつは買出しだ。
そう言われていたから、俺はOBから預かった札を握り締めてコンビニへ向かった。
「若林じゃ、持ちきれないだろ」
聞こえた耳馴染みのある声が、俺の後についてきた。
・・・ジージージージー。
うるさいくらいに鳴く蝉の声の中、俺と春日は2人で歩いていく。
東京育ちの俺にとっては、あんまり得意じゃないごつごつとした林道を
国道めざしておぼつかない足取りで無言で歩いていく。
「一人で平気だったのに」
ようやく搾り出した声は、自分でもびっくりするくらいかすれていた。
「おたくさんだけじゃ、あの酒豪たちの分はちょっときついでしょ」
俺の前を歩いていく春日は、やっぱりあの大きな背中で俺を守るようにして
ずんずん進んでいく。
・・・ジージージージー。
蝉がうるさかったんだ。
酒が入って、酔っていたんだ。
夜なのに、暑くて、蒸してて、むせかえりそうだったんだ。
だから、あんなこと、言ったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!