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ドアのあたりからざわめきが起こる。まさかまた大物芸人か、と見やると、そこにはあいつが立っていた。
いつもは7:3(自分では8:2なんだといってはばからないが)の髪を、サラサラと前におろしたプライベートモード。
先輩からのおさがりであろう長袖のTシャツにデニム、先日お母さんからもらったばかりというトートバッグを
手に提げて。
春日だ。
その印象的な目元を一瞬ぐるりと泳がせたのは、若林を見つけるためだろう。
きゃあきゃあと騒ぐ女子大生にいつもの決めポーズをしてみせると、迷うことなくこちらに向かってきた。
「なんらぁ、ぽんこつぅ。おま、仕事ちゃんと終わらせてきたのかよ」
あぶなっかしい様子で春日を睨みつける若林をいったん無視して、まずは松本さんに挨拶をする。
「一瞬わからんかったで。せめていつもみたいに、、こう胸はっとかな」
松本さんは、春日の真似をして胸をつきだしてみせる。
ちょっとした挨拶の時間にも、笑いをとることを忘れないところは流石だと思う。
でも、僕はなぜか一秒でも早く松本さんの隣から若林を連れ出したかったんだ。
席に着く前に、「すみません、ちょっとまずはトイレ行きたかったんで」と春日はまた部屋を出て行った。
その後ろを僕は追う。
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