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トイレに入ると、春日はチラとこっちを見てから、おもむろに用を足し始める。
「おい、なんであんな酔っぱらってるんだ」
若林のことだ。春日も若林も、いつもまず口をついて出てくるのは相方のこと。
「松本さんが結構飲ませてたから」
隣で用を足しながら、僕は続ける。
「なあ、若林、ちょっと危ないかもしれないぜ。お前、なんとかできる?」
すると、春日は無言のままジッパーをあげて、さっさと隣を離れてしまった。
何も言わず手を洗いはじめた春日にちょっとムカっときて、ついイラついた声をだしてしまう。
「聞いてんのかよ、おい」
トイレを出て行こうとした春日は、ちょっと振り返ってこう言って、笑った。
「俺がいるから、もう大丈夫だ」
・・・くそ、カッコいいじゃねえか。あの笑顔はどうにも気持ちわるいけど、さ。
冷たい水で顔を洗って、少しだけ酔いを醒ましてから部屋へ戻った。
すると、ちょうどドアから春日と若林が2人揃って出てきたところだった。
春日は若林の揺れる肩を抱きかかえ、がっしりした胸板で体重全部を受け止めるようにしながら
「悪い、佐藤。あとは頼む」とすまなさそうな顔を僕に向ける。
僕に気づいた若林くんは「あ、佐藤くんだ、そうだそうだぁ、明日なんだけどさあ、事務所って・・・」
と笑いながら、こちらへ来ようとする。
それをグッと引き寄せると、「あとでメールでやりとりすればいいだろう、とりあえずもう帰るぞ」
といいながら若林をなかば抱きかかえるようにしてエレベーターへと歩き出してしまった。
「なんでだよぉ~ちょっと話せばすむだろぉ~おい、きいてんのか、このばかすがぁ~!」
そんな若林君の甘ったるい声だけを残して。
ああ、悲しきかな。
部屋に残されたるは、孤独な男たち。
今宵は君を想い、とことん飲み明かそうか。
END
長くなってしまいましたが、この物語をベースに色々な話を作っていきたいと思っています。これから若を中心にして、様々な人物が絡み合っていきます。・・・のつもりです。
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