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「おはようございます。」 朝、7時50分。 同僚に挨拶をしながら社内に入っていく。 パソコンを立ち上げ、その隙に喫煙所へと急ぎ足で向かった。 煙草を止めるのはとうに諦めて、肩身の狭いスモーカー生活にも慣れ、小さな換気扇の前に立つ。 「田端さん。」 「おお。」 後輩の橋本。 「昨日アポとれました?」 「ああ。」 「良かったっすね。俺もなぁ‥なんか良い話ないかな。」 項垂れる後輩は、2ヵ月前地方から転勤してきたまだ3年目の若い社員だ。 「次決まったら、飲みに連れてってやるから。」 「まじっすか?」 にこりと笑う。 人懐こい笑顔につい顔が緩んだ。 少しだけ、弟を思い出す。 昔は、あいつもこれぐらい素直に笑ったな、と。 大学を卒業後、立て続けに教員試験に落ちてから、弟はあまり笑わなくなった。 でも、その理由がそれだけじゃないことを、俺は知っている。 人見知りで、必ず一歩引いて、人と深く関わることを避けている。 5つ年下の弟は、俺にすら心を開かなくなった。 そんな気がする。 .
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