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翌朝、パンクは店の準備をする釣吉に、和紙と筆を渡した。
「おっさん、悪いけど、この村の地図を書いてくれねえか」
「まあいいが、一体何に使うんだ?」
「まあまあ、適当でいいから書いてくれよな」
出来上がった地図はかなり雑で、距離感覚とかがずれていた。
「うまく書けん。書き直してもいいか」
「いや、いい。地図なら何だっていいんだよ」
パンクは地図を持つと中庭へ行き、井戸から水を汲むと地面に撒くと、出来上がった水溜まりに地図を浸した。
次に地図を水溜まりから出し、握って水分を絞り、かまどの火の近くの壁にペタりと貼った。
「パンク、何してるんだ?」
「年代ものの地図に見えるように、加工してんだよ」
「なるほど、地図、か」
昼、パンクはウエスタン横丁を抜け、右手に折れ宿屋街の裏手にある両開きの扉を開け、マカロニ酒場へと入っていった。
マカロニ酒場は連中の中立地帯になっているらしく、仲良くとまではいかないが睨みあいが起きる程度で暴力的な出来事は起きそうにない。
朝来村で唯一酒が飲める店だから中立地帯になっている、と今朝釣吉がパンクに教えたが、本当かどうかは不明だ。
パンクが酒場に来た目的は一つ。混乱である。まずは徹底的に混乱させる。
彼らはもう既に前日の、帝国陸軍とパンクが起こした騒ぎを聞き付けていた。
「辛粕大尉の野郎、小隊をやられちまったらしいぜ」
「ほう、たった一人で」
「パンクって奴さ。西洋顔した男前で、凄い速度で動くらしいぜ」
「そいつ、仲間に欲しいな」
「奴さえいれば帝国陸軍に発掘の邪魔されないぜ」
「人間じゃないらしいぜ。なんでも陸軍中野学校が作った人造人間とか」
「ナチスの秘密兵器らしいぜ」
「丹波の妖怪がこっちまで逃げてきたって聞いたぞ」
「そりゃ全部嘘さ。辛粕大尉が兵士の補充が欲しくて流布した噂ってのが真相らしいぜ」
「見てみたいな、パンクって奴を」
一夜で噂話は広がっていた。
彼らは一様にパンクへの興味を持ち、その戦闘能力を確かめたがった。そして、あわよくば仲間に引き入れたい、と願った。
今、そのパンクが彼らの目の前にいる。
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