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 パンクはステーキの載った皿を手に取ると床に放り投げた。辛い粕はナイフとフォークを揃えて置き、ナプキンで口を拭いてからビールを飲んだ。今は我慢だ、明日までの我慢。 「さすが軍人さんだな。無視するとなりゃ徹底的に無視しやがるぜ」  無数の目の暗闇から男が一人、パンクに歩む。麻のスーツを着た西洋人、いや、西洋人にしては色が白すぎる。白を通り越して、青っぽく見える。 「初めまして、バンクさん。私はこういう人なんですよ。取材よろしいよ」  『ロシア国営タス通信 極東支局政治経済部 リヒャルト・ゾルゲン記者』と書かれた名刺を渡される。 「なんだ新聞記者さんかよ仕事熱心だな。地頭村長は仕事が早えな。えっと尋ね人の親父の写真はこれで、名前はニック・チナスキー。連絡先は朝来村郵便局止めで頼むぜ」 「そんなことわかりませんよ。取材お願いよ」 「うん?親父探しに協力してくれるんじゃないのか?」 「それは多分、私たちとは違う新聞社だよ。私は国際通信社よ。取材お願いよ」  二階席から「抜け駆けすんじゃねえぞ、ロシアのスパイが!」という野次が飛ぶ。続けて「薬つかうんだろ、得意の薬!」と野次が飛ぶと、ドッと笑いが出る。 「スパイじゃないよ!記者よ!世界にニュースを配信する、タス通信の記者よ!パンクさん、あんな奴等を信用しちゃダメよ。私はスパイじゃないよ」  ゾルゲンはペンを握り左手に手帳を持ったが、微弱な、違和感というにはあまりに些細な違いがあった。それは、ペンを持つにしては右手首が曲がりすぎている、ということだ。 『よー、パンク。よーよー、パンク。早くこいつら殺っちまおうぜ。見てみなこいつ、ゾルゲンのペンを。眠薬仕込んだ特別製。』  殺しはしねえ、退治だ退治。人殺しでは問題発生、そんなの俺は御免だぜ。親父探し中に人殺しは、まずいだろ。新聞掲載、尋ね人。そこから一転保護者探し。奴等をこの村から、追い出すだけでいい。混乱させろ、互いを監視、奴等を争わせて作戦完了。 『混乱だけならつまんねえ。殺せよパンク。八つ裂きだパンク。ジェノサイドマシン、活動開始。』  お前マジうぜえ。殺さねえよ俺は。奴等を絶望、させるだけだ。単純簡単嘘一発、強欲野郎は紙一枚!
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