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「気にするな気にするな。旅人から金取るほどケチじゃない。そんなことより、酒場なんかに行ってもバイト先なんか見つからないぞ」
「そうか?金なくなったら酒場でバイト探して、んでその金で旅を続けてんだけどさ」
「ほら、食えよ。醤油もいるな醤油。ワサビは要るか?」「辛いの嫌いなんだ」
「そうか。じゃあ刺身食いながらでいいから俺の話を聞け。いいか、この村は他とは違って作法というかしきたりというかマナーというか、流儀がある。流儀から外れたら命がない」
「おっさん旨いなこのイカ」
「おい、そりゃハマチだ。でな、流儀ってのはただ一つ。危ない奴からは遠ざかることだ。とにかくここ数週間は軍人や学者や得体の知れない連中が、生ゴミに集るハエみたいにウヨウヨしていてな、奴等とは言葉を交わすな。目もあわすな」
「その軍人や学者や得体の知れない連中ってのは、なんだ?ってか、おっさん本当旨いわこのタコ」
「だから、ハマチだ。奴等が狙っているのは徳川家がいざという時の為に蓄えた金、埋蔵金だ。その量、十トンとも二十トンともいわれている。山中に金塊の巨大な仏像として埋められているとか、川底に鯉の造形で埋められているとか、砂金で畑に混ぜられているとか、噂だけが飛び交っている」
「埋蔵金があんのかよ」
「あるわけないだろ、噂だ。悪いことはいわん、酒場には行くな。酒場には奴等がウヨウヨしていて危険だ。ついでにいうと、この村は早々に立ち去るべきだぞ」
「おっさんご馳走さん。このマグロ旨かったぜ」といい、皿の上に箸を揃え、手をあわせた。
「ハマチだ」
「そっか。といっても俺、バイトしねえと次の町まで行けねえんだわ」
「だったらうちを手伝わないか。一ヶ月ほど手伝えば、しばらくの旅費分ぐらいの給金は出してやるぞ」
「マジかおっさん、なら世話になるぜ。いやあ今日はツイてんぜ。バイトは見つかっし、タイまで食わして貰うし」
「こっちにこい、部屋に案内してやるよ」と魚田はパンクを手招きしてから「さっき食ったのはハマチだからな」と付け加えた。
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