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 パンクが店に出ると、腰の曲がった小さな老婆が商品棚を覗き込み、ジッとイカを眺めて耳を指で摘まんだり、腹を押したりしていた。 「スミばあちゃん、今日はイカにしはるん?」 「ワタ抜いて捌いてくれんこ」 「お造りにするん?炒めるんやったら、ワタつこて炒めたほうが美味しいよ」 「煮付けるけんワタいらん。台所が臭なるけんね」  亜弍は商品棚からイカを手に取ると、流しでぐるりと足を捻りワタを切り、流水で胴を洗い開いて筋を切り取った。トレーに入れる。 「スミばあちゃん捌けたよ、こっち入れとくしね」 「ほんげまあ亜弍ちゃんよ、いつ婿取ったんこ?」 「婿なんか取っとらへんよ。この人は新しいお手伝いさん」 「ばあちゃんよろしく頼むぜ。ここに厄介になるんは一ヶ月ほどだけどな」 「ほげなこったで。握手してくれんこ」 「あいよ。ばあちゃんこれでいいか?」  スミ婆さんが伸ばした岩のようにゴツゴツとした右手を、パンクはがっしりと掴む。 「ふぉ、ぬふぉ。ヌシ男前やけ、触れたらわしゃ若返るけんね。亜弐ちゃんやのうて、婿にこんけ?わしの婿にこんけ?」 「ば、ば、ばあさん。すんげー力してんな。そ、そ、ろそろ手を離してくれねえか」 「嫌やけ。手繋いで若返るけのう。ほげな、わしの婿になっ」  ドスっ、という鈍い音が聞こえた。帝国陸軍のサイドカーがスミ婆さんをはね、急停止する。  エンジンを切りヘルメットを脱ぎバイクから降りる男。丸刈りで切れ長の一重、面長で引き締まった顎。肩の階級章は大尉。  着帽してからサイドカーのミラーで帽子の被り方を確認する。サイドカーの後ろに帝国陸軍の兵士が八人乗るトラックが止まった。 「スミばあちゃん!」転がり土埃だらけのスミ婆さんに亜弍は駆け寄り、体を屈める。 「ばあちゃん大丈夫?起きれる?」 「わしを轢くなってもこら、どごうろけん」と呟きながらスミ婆さんは顔を起こした。 「コラてめえ老人を轢くんじゃねえ!ちゃんと前見て運転しろや!」とパンクは怒鳴るが、ミラーから目を離した大尉はパンクを無視して、商品棚の魚を摘まむ。 「フン、悪くはないな。接収してやる。おい、運べ!」  
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