突然の呼鈴

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暗闇の手術日以降、一ノ瀬と朱里は朱里の実家と一ノ瀬の部屋との二重生活をしていた。 母と紫苑を前に一ノ瀬は全てを話し、その上で朱里と一緒になりたいと告げた。 紫苑の結納の日取りも決まったらしく、母は息子二人を持てる幸せを一ノ瀬に話した。 ただ、問題は真白だった。 市の教員採用試験には案の定落ちたのだが、日進新聞の内定はもらっていた。 内定通知のあった後、母は無理矢理に真白を博多へ帰らせていた。 本来ならば家族である真白にはその旨報告をし、一緒に祝うのが筋ではあろうが、今の真白では紫苑の嫁ぎ先へは連れては行く事は躊躇われる…… 増して、同じ屋根の下に生活をしようとしている一ノ瀬に伊知川の二の舞を踏ませたくない…… 母は情けない表情で一ノ瀬に涙ながら言った。 「お母さん、自分は大丈夫ですよ。 伊知川には悪いのですが、伊知川がサンプルになって教えてくれたようなものですから…… 最も…… 単に彼女は朱里のモノが欲しいだけではないでしょう。 自分は地方新聞の平の記者…… 同じ年齢でも伊知川のように大手でポスト持ちではないし、アイツのような身体から滲み出ている優しさは自分には全くありませんから…… 彼女が自分に手を掛けて来るとは考え難いですよ」 一ノ瀬は笑って安心させた。
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