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「成歩堂?」
準備した紅茶をデスクの上に乗せておいて、歩み寄る。
距離が詰るにつれて、私の顔に合わせられた彼の視線も持ち上がっていく。
恐る恐る、頬に掌を宛がった。
逃げたり跳ね除けたりといった反応は見られず、こっそり安堵の息をつく。
彼の不機嫌の直接の原因は、私の過失にあるわけではないらしい。
そうとわかれば、いつまでも大人しく様子を伺っている必要はない。
「龍一」
促すように名を呼べば、意地っ張りな瞳が揺らぐ。
「……だって」
「何だというのだ?」
「お前、女の子にめちゃくちゃモテるから……」
「うム?」
「なのに女の子たちに優しくするしっ……」
「女性にちやほやされた記憶も、優しくした記憶もないのだが……??」
「木之路さんとか 宝月さんとか 美雲ちゃんだって。姫子さんもだし、オバちゃんもじゃないか」
「……お前、彼女たちにちやほやされたいというのか?」
私というものがありながら。
それ以前に、あのオバちゃんにちやほやされたいなどとは、趣味に相当問題が……。
「なっ、違うよっ!!」
動揺を見せる眼差しがまっすぐに向けられる。
けれど視線は、ふいとそらされてしまう。
「龍一?」
泣き出しそうな瞳と、かち合う。「嫌じゃんか。とられるかもって、思っちゃうんだよっ!!」
不器用な、感情の発露。
「……それは、嫉妬か??」
「っ~~!!」
睨みつけてくる眼差しも、赤く染まった頬も、愛しくて仕方がない。
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