2/3
前へ
/3ページ
次へ
「成歩堂?」 準備した紅茶をデスクの上に乗せておいて、歩み寄る。 距離が詰るにつれて、私の顔に合わせられた彼の視線も持ち上がっていく。 恐る恐る、頬に掌を宛がった。 逃げたり跳ね除けたりといった反応は見られず、こっそり安堵の息をつく。 彼の不機嫌の直接の原因は、私の過失にあるわけではないらしい。 そうとわかれば、いつまでも大人しく様子を伺っている必要はない。 「龍一」 促すように名を呼べば、意地っ張りな瞳が揺らぐ。 「……だって」 「何だというのだ?」 「お前、女の子にめちゃくちゃモテるから……」 「うム?」 「なのに女の子たちに優しくするしっ……」 「女性にちやほやされた記憶も、優しくした記憶もないのだが……??」 「木之路さんとか 宝月さんとか 美雲ちゃんだって。姫子さんもだし、オバちゃんもじゃないか」 「……お前、彼女たちにちやほやされたいというのか?」 私というものがありながら。 それ以前に、あのオバちゃんにちやほやされたいなどとは、趣味に相当問題が……。 「なっ、違うよっ!!」 動揺を見せる眼差しがまっすぐに向けられる。 けれど視線は、ふいとそらされてしまう。 「龍一?」 泣き出しそうな瞳と、かち合う。「嫌じゃんか。とられるかもって、思っちゃうんだよっ!!」 不器用な、感情の発露。 「……それは、嫉妬か??」 「っ~~!!」 睨みつけてくる眼差しも、赤く染まった頬も、愛しくて仕方がない。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加