夢と現実と

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風が吹いていた 穏やかな、けれど どこか切なさを感じる風 辺りは、薄いすみれ色の 霧に包まれている。 見たことの無いはずの景色 遠く遥かを見渡しても どこまでもただ 地平線だけが続いている けれど、彼は知っている この景色を 何処へともなく、ではなく 自らの足が、彼の意思とは 関係無く まるで、これから向かうべき先を 知っているかのように すみれ色の霧の向こうへ 歩みを進めていく 彼は、向かう先に 何が待っているのかを すでに悟っていた 抵抗を試みてみても 体は、自らの意思の束縛を離れ 歩みをすすめていく 気付けば、名も無き小さな花が 辺りには咲き乱れていた 無機質な、それでいて 安らぎを覚える白の花弁が、 風に小さく揺れている… 風の向こうから、かすかに 水のせせらぎが聞こえた気がした 彼は小さく呟いた 「俺は、まだ………」 静寂は打ち破られ ふいに、けたたましく 鳴り響く目覚まし時計の 機械的な音 それはまた、新しい 一日の訪れを報せていた… 何気なく、日常は巡る
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