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教皇庁国務聖省マッシリア支部第二情報課の執務室は、むっとするような血の臭いに包まれていた。普段ならば大勢の人間が歩き回り、様々な会話が活発にかわされているはずの午後四時の執務室が、今はしんと静まり返っている。
会話を交わすはずの所員たちの多くはタイル張りの床を大量の赤い液体で汚し、物言わぬ身体をさらしていた。
「うう……」
第二情報課所員のミッシェル・ド・ラヴォールは声にならない声で呻いた。まだ若い彼の中性的な整った顔は、あまりのことに驚きも怒りも恐怖も通り越して、もはや表情をなくしている。いつの間にか、二本の足で立っている所員は彼ひとりだけになっていた。
ミッシェルが茫然としている間にも、執務室の中では休むことなくマシンガンの銃声が轟いている。
「何だ、まだ残っていやがったか。おお、こいつは上物じゃねぇか」
マシンガンを握るスキンヘッドの大男――この惨事の元凶である二人組の強盗の一人が、ミッシェルを見つけて下品な声を上げる。口を尖らせてヒューヒューと息を吹いているのは、口笛のつもりだろうか。
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